何ともいえないロマンが潜んでいます
「花嫁富籤」（横溝正史）
（「横溝正史ミステリ
短編コレクション⑥」）柏書房
「花嫁富籤」（横溝正史）
（「青い外套を着た女」）角川文庫
当選金額一万円と副賞花嫁衣装で
話題となった花嫁富籤。
失業中の絹代は、当選籤を持って
賞金を受け取りにいくが、
断られる。
富籤は引き裂かれて
半分だけだったからだ。
その富籤は、ある晩、謎の紳士から
贈られたものだった…。
販売促進の一環として
豪華景品が当たる抽選券が
商店街で配られる。
花嫁富籤はそんな抽選券の一種です。
賞金一万円に加え、
副賞として女性には花嫁衣装
(男性には男性用礼服)が
プレゼントされるというものです。
絹代は当選したものの、
引き裂かれたその半分しか
持っていなかったのです。
【主要登場人物】
甲野絹代
…21歳。ダンサーだったが失職。
奇妙な紳士から貰った｢花嫁富籤｣が
当選する。
奇妙な紳士(城南の奇人)
…余命わずかであるため、気まぐれで
花嫁富籤を二つに裁断し、
左右片方ずつを
見知らぬ男女に分け与える。
桑原
…絹代の近所のタクシー運転手。
磯野専務…大黒屋デパート専務。
マドロス史郎…悪党。
本作品の味わいどころ①
半分に引き裂かれた富籤
主催した百貨店は、
一枚完全にそろわないと
賞金を渡せないと主張します。
なぜ絹代は半分しか
持っていなかったのか？
絹代にその富籤を送った紳士は、
病に冒され余命幾ばくもない
身の上でした。
そこで自分の持つ富籤を
二つに引き裂き、
左側を女性に、右側を男性に、
それぞれ不幸な影を引きずっている
人たちに配ったというのです。
夢がありながらも
どこか事件を引き起こしそうな
謎めいた行動。
ここに何ともいえない
ロマンが潜んでいます。
本作品の味わいどころ②
いきなり巻き起こる事件
ことの顛末を
新聞が報じたから大変です。
当然絹代は注目を集め、
当然悪者がそこに目をつけ、
当然事件が発生します。
そして当然のことながら、
窮地に陥った絹代を助ける素敵な男性が
現れるということになります。
ここに何ともいえない
ロマンが潜んでいます。
本作品の味わいどころ③
予定通りのハッピーエンド
そしてすべてがハッピーエンドで
幕を閉じます。
絹代も、
絹代が袖にした男性･桑原も、
富籤を企画した百貨店も、
そして命が尽きようとしていた
謎の紳士も、
すべて大団円で終わります。
ここに何ともいえない
ロマンが潜んでいます。
まるでO.ヘンリーの作品を
読み終えたような感覚さえあります。
横溝正史といえば
金田一ものに代表される
おどろおどろしい作品世界が私たちの
脳裏に染みついているのですが、
それは戦後の作品群に
限ってのことなのです。
戦前の作品は、耽美な世界を
前面に押し出した作品をはじめ、
本作品のようにロマン溢れる作品も
多数存在します。
芳醇な横溝作品を
今一度味わってみませんか。
※本書もすでに絶版となって
久しいのですが、
今年(2018年)5月に刊行された
｢横溝正史ミステリ
短篇コレクション6 空蝉処女｣に
収録されています。
（2018.8.5）
〔追記〕
アイキャッチ画像を、
｢横溝正史ミステリ短篇コレクション｣に
差し替えました。
※柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
⑥空蟬処女」収録作品一覧
白い恋人
青い外套を着た女
クリスマスの酒場
花嫁富籤
仮面舞踏会
佝僂の樹
飾窓の中の姫君
覗機械倫敦綺譚
花火から出た話
物言わぬ鸚鵡の話
マスコット綺譚
恋慕猿
Ｘ夫人の肖像
八百八十番目の護謨の木
二千六百万年後
空蟬処女
玩具店の殺人
頸飾り綺譚
劉夫人の腕環
路傍の人
帰れるお類
いたずらな恋
上海氏の蒐集品
（2022.9.25）
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